ホスティングサービスは、いわゆるレンタルサーバーと呼ばれるGMOクラウドのiCLUSTA+、NTTコミュニケーションズのBizメール&ウェブ、ロリポップ!、さくらinternet等を利用するのが一般的でしたが、クラウドサービスを提供するAWSのVPS(Virtual Private Server)をホスティングに利用することもその選択肢となってきています。ここではこの「AWS」とレンタルサーバーの中でも最安値レベルの「さくらinternet」の料金を中心に比較したいと思います。
AWSのホスティングサービスAmazon Lightsail(ライトセイル)は2018年08月01日に料金が半額になりました。AWSは料金、サービスの改定サイクルが非常に速いですのでご注意下さい。このページの情報は2019年02月13日時点のものです。
1.AWS概要
amazon AWSでは様々なサービスが提供されておりホスティングに利用したいとして、その場合一体何を利用すれば良いのか混乱してしまいますが、ホスティングを行う場合は概ね以下のサービスを利用することになります。EC2及びRDSは2016年8月にLightsailがローンチされて以降、セキュリティ設定や高負荷対応などLightsailの上位機能を有しますが通常レベルのホスティングでは利用されることはほとんどなくなりました。
サービス名 |
料金 |
用途 |
S3 |
有料・従量制 |
クラウドストレージ |
Route53 |
有料・従量制 |
DNS設定 |
Certificate Manager |
無料 |
SSL/TLS証明書(HTTPSの認証) |
CloudFront |
有料・従量制 |
CDN(Content Delivery Network) |
Lightsail |
有料・定額制 |
EC2、RDSを一体化したサービスとして定額制で提供されるAWSの新サービス |
EC2 |
有料・従量制 |
VPS(Virtual Private Server) |
RDS |
有料・従量制 |
バーチャルリレーショナルデータベース |
上記サービスを利用目的により選択して利用します。
利用目的 |
利用するサービス |
静的サイト(HTML/CSS/JavaScript) |
独自ドメイン利用 |
HTTP |
S3・Route53 |
HTTPS |
S3・Route53・Certificate Manager・CloudFront |
動的サイト(PHP等、DB、WordPress) |
HTTP |
Lightsail・Route53 |
HTTPS |
Lightsail・Route53・Certificate Manager |
1-1.S3(有料・従量制)
AWSのオンラインストレージサービスSimple Storage ServiceをS3と略称しています。通常のオンラインストレージとしてファイルをアップロードし共有するという使い方もできますが、最大の特徴はバケット(フォルダのようなもの)を作成し「Static website hosting」をクリックするだけで即時、http://xxxx.s3-website-ap-northeast-1.amazonaws.comのようなアドレスが付与されHTTPでアクセスできるようになることです。つまりHTMLファイルをS3のバケットにアップロードすれば、すぐにWEBサイトが公開できるということになります。
料金体系
料金体系は従量制で非常に複雑です。ストレージ料金、ストレージマネジメント料金、リクエスト料金、データ転送料金、S3 Transfer Acceleration料金、クロスリージョンレプリケーション料金に分かれさらにリージョンと呼ばれるデータセンターの地域(ex.東京、オハイオ、バージニア、シンガポール等)ごと料金が変わります。詳しくは公式サイトでご確認下さい。ここではできるだけ分かりやすく概算料金を出したいので
・リージョンは東京
・ドル円は1ドル110円
を前提条件に
料金項目 |
料金 |
説明 |
ストレージ料金 |
2.75円/GB |
利用有無問わずアップロードしたデータ量に応じて支払う料金 |
リクエスト料金 |
0.00004円/リクエスト |
HTTP通信で不特定多数のユーザーのリクエスト数に応じて支払う料金 |
データ転送料金 |
12.54円/GB |
HTTP通信で不特定多数のユーザーに送るデータ量に応じて支払う料金 |
を大まかな料金体系としています。
※ストレージマネジメント料金、S3 Transfer Acceleration料金、クロスリージョンレプリケーション料金は無視しました。
※ストレージ料金は50TB/月以下の料金です。50TB/月以上は料金が若干安くなります。
※リクエスト料金はPUT、COPY、POST、GET、SELECTリクエストによって料金が異なりますが、静的サイトの場合GETしかありませんのでGETの1リクエストあたりの料金です。ソースをアップロードの際のPUT料金は無視しました。
※データ転送料金10TB/月以下の料金です。10TB/月以上は料金が若干安くなります。1GB/月までは無料ですが無視しました。
1-2.Route53(有料・従量制)
AWSのDNSサービスです。AWS又はお名前.com等のレジストラで取得した独自ドメインとS3、LightsailをDNS登録するためのサービスです。
料金体系
料金体系は従量制で非常に複雑です。ホストゾーン料金、クエリ料金、エイリアスへのクエリ料金、トラフィックフロー料金に分かれます。詳しくは公式サイトでご確認下さい。ここではできるだけ分かりやすく概算料金を出したいので
・ドル円は1ドル110円
を前提条件に
料金項目 |
料金 |
説明 |
ホストゾーン料金 |
月額55円/ゾーン |
概ね1ドメインの管理に必要なAレコード、NSレコード等のセットのことです。複数のドメインを管理する際は複数のゾーンを持つことになりますが、そのゾーンごとの管理料です。これは従量制ではありません。 |
クエリ料金 |
0.000044円/クエリ |
独自ドメインへの名前解決ごと発生するクエリの料金です。 |
を大まかな料金体系としています。
※エイリアスへのクエリ料金、トラフィックフロー料金は無視しました。
※ホストゾーン料金は25ゾーン以下の料金です。25ゾーン以上は料金が安くなります。
※クエリ料金は標準クエリの料金です。レイテンシーベースのルーティングクエリ、Geo DNS および地理的近接性に基づくクエリ料金は考慮していません。又、この標準クエリの料金は10億/月クエリ以内の料金です。
1-3.CloudFront(有料・従量制)
AWSのCDNサービスです。CDNはキャッシュサーバーを世界各地に配置しユーザーのリクエストに最も近い場所からリクエストに答えることで送信時間を短縮する技術で、特に動画など大容量のデータ送信に威力を発揮します。昔は非常に高額で簡単に導入できるものではなかったのですが、このCloudFrontのローンチにより価格破壊が起こったと言われています。
ただし、導入する必要があるのは余程大規模なサイトでかつ世界中からのアクセスがあるサイトに限られます。通常規模のサイトなら導入する必要はまずないのですが、実はS3ホスティングでHTTPS化するにはCloudFrontの導入が必須なのです。この為にCDN自体は不必要であってもHTTPS化するためにCloudFrontを利用するということになります。
AWSは仕様変更が頻繁です。こういった問題点もすぐに改善されることがありますが、改善したとしても利用者に個別にメールで連絡するようなことはありませんので常に最新の情報を収集するようにして下さい。
料金体系
料金体系は従量制で非常に複雑です。インターネットへのリージョンデータ転送、オリジンへのリージョン内データ転送、HTTPメソッドのリクエスト料金に分かれさらにリージョンと呼ばれるデータセンターの地域(ex.東京、オハイオ、バージニア、シンガポール等)ごと、CDNの範囲(料金クラスと呼ばれます。ex.欧米のキャッシュサーバーのみ利用なら安い、全世界のキャッシュサーバー利用なら高い)ごと料金が変わります。詳しくは公式サイトでご確認下さい。ここではできるだけ分かりやすく概算料金を出したいので
・リージョンは東京
・CDNへのアクセスは日本国内からのみ(外国からのアクセスがない)
・ドル円は1ドル110円
を前提条件に
料金項目 |
料金 |
説明 |
オリジンへのリージョン内データ転送料金 |
6.6円/GB |
S3からCloudFrontに送るデータ量に応じて支払う料金(オリジンフェッチ) |
インターネットへのリージョンデータ転送料金 |
12.54円/GB |
CloudFrontから不特定多数のユーザーに送るデータ量に応じて支払う料金 |
HTTPメソッドのリクエスト料金 |
0.0001円/リクエスト |
HTTP通信で不特定多数のユーザーのリクエスト数に応じて支払う料金 |
を大まかな料金体系としています。
CloudFrontを利用した場合、リクエストはCloudFrontから受ける形になりますのでS3のリクエスト料金、データ転送料金は不要になります。
1-4.Lightsail(有料・定額制)
Lightsailは定額制の簡易版VPS(Virtual Private Server)です。AWSの本格的なVPSはEC2、データベースはRDSなのですが、これらは従量制でかつ操作方法や設定が開発者向けでかなり複雑なため、ホスティングに特化しEC2、RDSの基本機能を有しつつ、できるだけ簡単なユーザーインターフェース、定額制としたサービスです。
料金体系
料金体系は定額制です。VPSのマシンスペックにより以下のようにプランが分かれます。ただし最大転送量を超えた場合はVPSのリージョンごと追加料金が発生します。詳しくは公式サイトでご確認下さい。
・ドル円は1ドル110円とします。
プロセッサ数 |
メモリ |
SSD容量 |
最大転送量 |
OS |
料金 |
1プロセッサ |
512MB |
20GB |
1TB/月 |
Linux/Unix |
385円/月 |
Windows |
880円/月 |
1プロセッサ |
1GB |
40GB |
2TB/月 |
Linux/Unix |
550円/月 |
Windows |
1,320円/月 |
1プロセッサ |
2GB |
60GB |
3TB/月 |
Linux/Unix |
1,100円/月 |
Windows |
2,200円/月 |
2プロセッサ |
4GB |
80GB |
4TB/月 |
Linux/Unix |
2,200円/月 |
Windows |
4,400円/月 |
2プロセッサ |
8GB |
160GB |
5TB/月 |
Linux/Unix |
4,400円/月 |
Windows |
7,700円/月 |
4プロセッサ |
16GB |
320GB |
6TB/月 |
Linux/Unix |
8,800円/月 |
Windows |
13,200円/月 |
※最大転送量を超えた場合は欧米:9.9円/GB、シンガポール:13.2円/GB、東京:15.4円/GBのようにリージョンごと料金が加算されます。
※別途データベースを利用する場合、1650円/月~料金がかかります。ただしWordPressで利用するデータベースの場合はWordPressインスタンスにデータベースが含まれているため別途データベースを利用する必要はありません。
※高負荷対応のためロードバランサーを利用できますが1台あたり1980円/月かかります。
2.さくらinternet概要
さくらinternetは格安ホスティングサービスの一つです。石狩データセンターを中心に日本国内でホスティングされています。AWSとの一番の違いは1日当りの最大転送量を超えた場合の扱いです。各プランの最大転送量を超えた場合503エラーとなりサイトが表示されなくなります。又こちらはメリットですがAWSと違いメールサービスが料金に含まれています。
主なサービスは以下の通りです。
プラン |
初期費用 |
月額料金 |
ディスク容量 |
最大転送量 |
Word Press |
CGI |
データベース |
独自ドメイン |
HTTPS (TSL/SSL) |
ライト |
1,029円 |
129円/月 |
10GB |
40GB/日 |
× |
〇 |
△ |
〇 |
〇 |
スタンダード |
1,029円 |
515円/月 |
100GB |
80GB/日 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
プレミアム |
1,029円 |
1,543円/月 |
200GB |
120GB/日 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
ビジネス |
5,142円 |
2,571円/月 |
300GB |
160GB/日 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
ビジネスプロ |
5,142円 |
4,628円/月 |
500GB |
200GB/日 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
※ライトプランでもWordPressを利用できなくはないのですが、クイックインストールと呼ばれるWordPressの機能を利用できず、又データベースにMySQLが利用できずSQLiteを利用しなければならないため実質WordPressの利用は厳しいです。
※全プランで独自CGI(perl、Ruby、Python、PHP)を利用できますがライトプランでPHPのモジュールモードは利用できず、CGIモードのみ利用可です。
※上記プランは全て共有サーバーです。
※上記プランの内ビジネスプロのみ静的IP(占有IP)が付与されます。
3.両者の比較
先ず両者の比較する場合に全サービスに共通したメリットデメリットがあります。
・AWSはグローバルサイトに強い
AWSは世界各地にデータセンターを持ちCDNやロードバランサーを利用することで世界各国のユーザーがより近い位置からデータを受信できます。一方さくらinternetは日本国内にしかデータセンターを持たないので海外からのアクセスは時間がかかります。さくらinternetでもCDNサービスを提供していますがこれは日本国内でのCDNであり負荷分散の意味合いが強くAWSのCDNとは別物ですので注意して下さい。
・AWSはJSP、ASP等何でも利用可。拡張性が高い
AWSによるホスティングLightsailはVPS上でのホスティングですので、JSP、ASP等何でもプログラムをインストールして利用可能です。またホスティングはAWSのコンピューティングサービスの一部でしかなく、ホスティングを足掛かりにその他様々な高度なサービスへの拡張が容易です。一方、さくらinternetはVPSではなく専用のコントロールパネルにより利用する形式ですので、JSP、ASP等元から準備されていないプログラムをインストールすることはできません。尚、さくらinternetでも別途VPSサービスを提供しています。こちらのサービスではJSP、ASP等自由にインストールして利用できます。
・AWSは503エラーのリスクなし
AWSは503エラーのリスクがありませんが、さくらinternetは最大転送量を超えた場合503エラーとなり、タイミングによってSEOに重大な影響が出ます。
・AWSは無料利用期間が長い
AWSは12か月の無料枠(各種制限あり)とLightsail無料1か月の無料利用期間が設定されています。一方さくらInternetは無料利用期間は2週間のみです。
・さくらinternetは操作が分かりやすい。サポートが手厚い
さくらinternetはそもそも日本のサービスなので説明書が日本語で分かりやすく、ライトプランでもフリーダイヤル及びメールによる問い合わせが可能です。一方AWSは説明書はあるものの、少し深い内容になるとすぐに英語の説明書しかなくなります。また技術的なサポートは月約3200円のデベロッパープランに加入しないと受付してもらえません。
・さくらinternetはメールサービス込
さくらinternetはメールサービス込です。一方AWSではSESなど別途サービス構築が必要でこれも従量制の料金がかかります。
・さくらinternetは請求書払い可
さくらinternetは請求書払いが可能ですが、AWSはクレジット決済のみです。
・さくらinternetは円建て為替変動リスクなし。税込
さくらinternetは円建てで為替変動リスクはありません。料金は税込です。一方AWSはドル建て料金なので為替変動リスクがあります。料金は税抜です。
静的サイト・独自ドメイン利用・HTTP
AWS:S3・Route53
さくらInternet:ライトプラン

さくらInternetの初期費用1,029円は考慮していません。AWSは初期費用無料です。
1ページ当りのコンテンツ量、全ページ数の想定で全く違う結果になりますが、今回の想定例では概ね7000アクセスが境目になってくるようです。
静的サイト・独自ドメイン利用・HTTPS
AWS:S3・CloudFront・Route53・Certificate Manager
さくらInternet:ライトプラン

さくらInternetの初期費用1,029円は考慮していません。AWSは初期費用無料です。
1ページ当りのコンテンツ量、全ページ数の想定で全く違う結果になります。又AWSはCDNに対しさくらinternetは一般のホスティングですのでサービス自体も違うのですが、今回の想定例では概ね3000アクセスが境目になってくるようです。
WordPressもしくは動的サイト・独自ドメイン利用・HTTPS
AWS:Lightsail・Route53・Certificate Manager
さくらInternet:スタンダードプラン
Lightsail、さくらInternetともにHTTPS化は無料なのでHTTPとHTTPSの料金に違いはありません。

さくらInternetの初期費用1,029円は考慮していません。AWSは初期費用無料です。
PHPのみ利用する場合はさくらInternetのライトプラン129円/月で利用できるためさくらInternetの方が安くなります。
1か月あたり最大転送量を超えない限り、AWS Lightsailの方が安いです。ただしAWSはWordPressの利用用途以外でデータベースを利用する場合、別途1,650円~かかりますのでこの場合さくらInternetの方が安くなります。
結論
料金だけで比較した場合、利用状況により大幅に変わりますが
静的サイトはアクセス数が少なければAWS、多ければさくらInternet。
動的サイトはWordpressならAWS、PHPだけもしくはPHP+データベースならさくらInternetです。